2003年度TDAテキスタイルスクール東京
「パネルディスカッション」
テーマ/テキスタイルの未来と国際化への対応
■日時:2月210日(土

 

古屋氏
時代が進むにつれて職業の領域が変化して行くのは世の常かと思います。 「テキスタイルデザイナー」という職業も、40年位前に新しい時代の担い手として生まれたようです。それは、簡単にいえば、昔から京都などを中心に存在した着物などの柄を描く”図案家”という 職人芸とは少し違って、新しい繊維産業(服地やインテリアファブリック)が必要とした 「テキスタイル」の「デザイン」という職域だったわけです。 そして、産業の発展、経済成長と共に多くの”テキスタイルデザイナー”が活躍されました。 しかし、高度経済成長のあと、特にバブル崩壊以後の景気の低迷、それに伴う産業や流通経済の構造の 変化により、”従来通りの”テキスタイルデザイナーの仕事は少なくなりました。 しかし、逆に言えば繊維産業に於いて、生産から消費までの流通のいろいろな場面でテキスタイル デザイナーの仕事が姿を変えてむしろ必要とされています。 つまりそれだけテキスタイルデザイナーの仕事内容が複雑になり、広範囲になっているということに なります。 ですから、私達も今までのカラを破ってもっと新しい時代にあったことを学んで従来の能力にプラス していけばやれる仕事はいろいろあると思います。 また、大量生産ばかりではなく、手造り感、クラフト的職人芸のデザインも再び注目されてきています。 つまり、テキスタイルデザイナー職もひとくくりではなく、個々の能力でいろいろな活躍の仕方が 有るのだとだと思います。 これからますます楽しいですよネ。 世界的なことでいえば、グローバルな経済発展に伴い、アジア特に中国の経済の急成長が注目のまとに なっていますので、中国でのデザインの需要にも関心がありますが、もっと前からデザインの内容も 世界的な広がりが進んでいますので、それは逆に今までのように欧米のデザインの物まねではなく、 日本の繊細な感性を大事にして、オリジナリティに自信を持って発信していく時代になっていると 思います。


講師:古屋氏

近沢氏
1)マーケティングからクリエーションは生まれない。 マーケティング主導の時代が長く続いたが、結果的には「コピー」と「価格競争」に陥った。 マーケットから得られる売れ筋データー・消費者動向等は、均質的情報となりマーケット信仰に 捉われた企業及びデザイナーにクリエーションの重要性を失わせた。 *マーケット情報は参考程度にし、デザイナーとしてのオリジナリティを基本にするべき。 2)生産現場を体験しないテキスタイルデザイナーは本物でない。 テキスタイルは最も人間に身近な素材である。入り口は広く奥が深い。 素材・生産などの知識を持たないデザイナーは単なるサーフエースデザインである。 日本には本当の意味でのテキスタイルデザイナーは少ない。 プロダクトからの発想も大切にして、この仕事にもっと誇りを持つべきだと思う。 目本経済の低迷のなか、インテリア業界は、消費者の「モノ離れ」「価格競争による不信感」 「欲しい商品がない」などから脱却できないでいる。 今、モノの時代が終わりライフスタイルの多様性・テイストヘのこだわり・文化的な香りが 求められている。 企業内でデザイナーの新人養成から終身雇用までの時代は終焉を迎えている。 多様な二一ズを背景に企業は個性的で生きの良いデザイナーをグローバルな視点で求める。 更に、海外戦略をもとにデザイナー一の国際性も要求する。 今後、テキスタイル業界ではインハウスデザイナーは更に減少する。 欧米のシステムにならって、企業とフリーランスが対等の関係でピジネスライクなパートナーと なってゆく。 デザイナーは個性的でオンリーワンのクリエーション活動が重要である。 「MYブランド」「他と違う」が基本コンセプトとなる。 余談だが、わが国の細分化されたデザイン団体は今こそ犬同団結して日本デザイン協会」のもとに集結し、強力団体として政・官に影響力をもち、デザインの社会的重要性を認識させるべきだと個人的に考えている。                    


講師:近沢氏
西田氏
1/幅広いデザイン領域があるのでやりがいを見つけやすい。 2/今こそ(テキスタイル)デザイナーの時代と考えている。 1/生活文化に貢献できるもっとも身近な可能性の広いデザイン領域である。 ライフスタイル(生活空間)を表現する上で大変やりがいを感じる仕事であると実感し、 取り組んでいる。 *体験で学んだ話しとして/1アパレル約7年、2フリーの企画約7年、3オリジナルホーム コレクション(ブランド化)の追求約7年を通し、様々なテキスタイルデザインの関わりに触れ、 取り組み方で、かなり幅広い仕事の領域がある事を実感した。どこかに特化した道も良いし、 また、私の場合生活に活かされる テキスタイル製品の可能性を探究し続け、常に希望を胸にデザインに取り組めると感じている。 2/日本産地の空洞化に伴う策は国がらみで様々に打たれている?! 企業や産地の生き残りはオリジナリティにほかならないと思っているが、この物作りの原点 であるオリジナリティある発想こそが、デザイナーの役目であり、使命と感じ前向きに取り組む べきである。 そんなテキスタイルデザイナーが今こそ必要とされ、生活文化に貢献できるのだと思う。 * 体験の補足として話した内容 アパレルのDCブームに乗り服飾デザインに興味を抱きレディース、メンズ、子供服、服飾雑貨等のテキスタイルデザインを行う。 そしてライフスタイルショップやCafe、家や環境などの空間に関わるテキスタイル製品の業界の 垣根を自ら低くしオリジナルデザイン製品を通し拡がりを追求している。

講師:西田氏
山内氏
■トーク1 □1975年合成繊維のメーカー東レMファッションセクション入社 ・当時女性の女子の通勤着はポリエステル・ジョ一ゼットのドレス。合繊メーカーの売れ筋は 「プリント下料」。 ・80年代に入るとシンプルラィフの時代にウールマークの隆盛もあり “合繊は人の着るものではない" ところが88年頃から新合繊の時代へ。さらに90年代にはカジュアルウェアが犬きな潮流になり、 無地の時代に入り、柄が消えてしまった。 ・新合繊は、それまでの生地=織布の概念を超えて、糸から染色加工まで通じて素材が設計・管理 され、創られることを意味するようになった。 例えば熱で伸縮するような繊維を使い、その加工時での発現状態を見極めて、織り編みをし、 染色加工時で初めてふくらみ等の特長を生み出す。 これは、現在の加工が重視されるテキスタイルクリエーションの基本技術となっている。 ・90年代後半からは製品輸入が激増。国内テキスタイル産業の空洞化が顕著になった。 □80年代DC時代の「ナカノヒロミチ」の話。 ・自分は服の詳細は判らない。バーピーの着せ替え服のような思いでスケツチをし、パタンナー・ 以下のグループが、人が着る服に仕上げている。 ・ファッション業界には、クリェーションアイデアを形にするシステムが存在する。 「従って、ファッション・クリエイターの卵に、業界の仕組みや慣習を詰め込む時間があるのなら、 その時間はクリエーション能力を磨くべき」(持論です) □世界が一つの産地・市場となっている現在では“オリジナルなクリエーション”が非常に大切。 ・そのためにはジャパン・オリジナル/「和」を追求することが大切。 ・安藤の建築やヨージ・コムデの評価の後ろには“ジャパン"が存在している。 ・デザイナーなら自己のDNAを生かしたら。 ■卜一ク2 □「食べること=モノ作り」と「生きること=クリエーション」は分けて考え、パランスをとった 活動を ・“食べること"は大切だが、身過ぎ世過ぎとは別の生き甲斐がデザイナーには必要。 ・クリエーションに志や哲学が必要な時代になっている。盲目的に大量生産・大量消費の片棒を 担ぐことは許されない。 □パパネック「生きのびるためのデザイン」(みすず書房)・「パパラギ」(東大出版)に続いて、 「100人の村」に注目。 ・一人だけが大学教育を受け、70人文字が読めず、50人が栄養失調という内容にショックを 受けない人はデザイナーの資格はない。 実際には遠い世界のことではあるが、実際もし、100人の村中の出来事なら、その一員として 何らかの行動を起こすはず。 デザイナーの“国際化”とは、一つの村の出来事として感じることができることではないか。 □そんな地球的環境の中での、「和」のデザインテーマは「質素なぜいたくさ」を表現すること。 ・金銀で飾り立てるのではなく、草木土風などの質素因子でのデザイン構築が21世紀のデザイン。 俳旬17文字での世界創造、素朴な楽茶碗の存在感、1本の野の花/茶花が作り出す緊張した空間 省エネ・省資源での最高美意識をテキスタイルで表現して下さい。繊細な感性の生かしどころ。 □戦争をなくすために、欧米・アラブ・中国などの主張する文化に替えて、日本の迎人文化・謙譲の 文化/自虐的とも言えるスミマセンの文化を21世紀もグローバルスタンダードにするために、 国のPRが必要。そうすれば自動的に日本のデザイナーが注目されます。 □“良い"デザイナーになろう!/ノーベル平和賞のダライラマと子供の会話。 ・子供   :「どうして人はうまれてきたの」 ・ダライラマ:「幸せになるためだよ」 ・子供   :「どうしたら幸せになれるの」 ・ タライラマ:「簡単だよ。良い人になればいいのだから。」

講師:山内氏
森山氏
JCクリエーションと国際化への対応 21世紀は、グローパルスタンダードの皮を被ったUSスタンダードは徐々に影を潜め、代わって多極的 多文化多宗教併存秩序が形成されるだろう。 国家の絶対性も西欧文化の普遍性も権威を失い、個性を取戻した地域や多様な文化や宗教などの 非国家的集団が抗争を繰返しながらも併存する時代が到来する。 このことは日本が、歴史と地理、宗教と文化、技術など重厚な集積を再確認し、自らの アイデンテイテイーを確立することで、初めて存在が認知されることを意味する。 欧米スタンダードー辺倒から脱却し、日本の気象、日光、風土から生まれた固有の色彩やデサイン、 テクスチヤー、繊維素材や加工技術から生まれたクリエーションこそ、グローバルに通用するジャパン クリエ一ショとして評価されるだろう。 それを可能にするのはテザイナーの仕事である。 欧米文化より足元の日本文化をもつと学ぶべきである。


まとめ それぞれのパネリストから伝わる共通のメッセージとして、いままでの西欧文化の影響から離れて 日本の持つ優れた面をもっと見つめ直し、デザイナー独自のオリジナリティを常に忘れない事で あるとの認識を持ちました。

講師:森山氏