日本テキスタイルデザイン協会主催
桐生産地見学会
● 開催日時:10月24日(金)新宿8:00-20:30新宿解散
●参加者  :28名

理事長の積極的な勧誘もあり定員28名乗りのバスが丁度定員数参加されました。
当日は穏やかな秋晴れの天気にも恵まれ、最先端の産地技術の見学会もさること、
行き道の車中で、杉山氏による2003-04 FW(仏)maison&objec(伊)MACEFの
トレンドとベンチャー企業やデザイナーの事業化などオリジナリティーに富んだ
ブースの写真提示によるミニセミナーをおこない、桐生までの2時間を有意義に過
ごしました。さらに昼食は丸進(株)会長さんが道楽でやっているラーメンを格安
な値段で戴きました。帰りの車中でも理事長自らの司会によって一人3〜4分の自己
紹介が行われました。
   
見学会の概要
この日は青山のテピアで「桐生産地素材展」 の開催と重なり訪問先の企業も参加し
ており、最新の商材を見せてもらうことができなかったが、各社共に留守役の方々
に熱心な説明を戴いた。
   
1.ミタショー(株)織物工場 11:00-12:00
■設備:ジャガード織機-レピア
           MAV 最大巾210B(一分間200回転)
           フレックス 最新超高速 最大巾180B(一分間400回転)
           R-200
■主な商材:衣料用資材(インテリアは5%程度)-生地巾130〜140B巾
                       国内向け95%・輸出5%
■特徴:●ウール糸使いの収縮加工、手間と時間がかかる自然乾燥によって意外
     な表情の織物が出来る。ポイントは温度管理と時間とのこと。
    ●異繊糸使いによる白生機、後染めが多い
     元々桐生は先染めの産地であったが、国内産地で生き残るためには少
     量短納期が求められる。3〜4種の異染糸で織ったものを後染めによっ
     て先 染め調の効果が出せ、少量にも対応できる。
    ●サンプルの整理、過去の織物見本の保管=財産
     見本を大切にして、古いものから順にヘッダサンプルでみられるよう
     になっている。創業時のスワッチを貼った受注ノートも大切に棚に保
     管されている。これらの見本を見ると、時代の流れを読みとることが
     出来る。若い人がこれが素敵と見ているものは古いものであったりす     る。時間が少なく、ゆっくり見られず残念でした。
    
 

2.丸進(株)刺繍工場 13:00〜14:30
■設備:あらゆる刺繍の機械100種以上
    工場は3ヶ所  多種多様なミシン工場
           最新のコンピューターによる特殊機械
           ハンドプリント工場(顔料)
■主な商材:ファッション関連の刺繍を使ったアイテム
      ハンドプリントはTシャツの小ロット対応、プリントだけでなくプリ
      ント+刺繍やアップケなど
       ブランドの立ち上げやファッションショーのための一枚見本
■特徴:●特徴の中で一番は、会長のおおらかなで、ラーメンを趣味とする人柄
     と刺繍に対する思い入れと情熱です。
    ●100種類を越えるミシンは、随時動かせる状態を保っているとのこと
     今ではここにしかないミシンも多い。
    ●少量対応で一品からでもOK。デザイナーが自分自身で作りに来てもよ
      い。
    ●研修体験や刺繍技能者の育成体制、既に刺繍工場として業界では有名
      になっている。多くの人が訪れ、学生だけでも年間100名を越える。
     刺繍を本当にしたい人の受け入れもしています。
     (長期研修可・但し宿泊食事費用は自己負担*詳しくは問い合わせが必要
    
 

3.小林当織物(株)織物工場 14:30〜16:00
■設備:工場三ヶ所 ジャガード 200回転〜400回転のものまで
          ドビー(14台 但し現在は稼働していません。)
    ジャガードでは桐生最大 創業50年
    後染めなどの染めは米沢、富士吉田に依託
■主な商材:ジャガード織物。特に、ミセスゾーン向けのフクレ織・スパン/デッ
       クス使いなど、一味違う凝ったもの。
■特徴:●スピードアップ、省力化/クイック対応→超高速機の導入
                        後染めへの移行
                        企画のリードタイムの短縮
    ●タテ糸フィラメント糸使い、主にナイロンは中国、ポリエッテルは東
      南アジア (中国では自家工場内で出来てしまいコスト的に太刀打ちで
      きない)
    ●サンプルの整理、過去の織物見本の保管(機械を見てもよくわからな
      いが、織られた生地を見て触れると身近に感じるのことができるのか
     参加者は熱心に見入っていました。時間が少なすぎたことが残念。 )

 

4.大沢翔会 伝統横振刺繍 16:00〜18:00
場所は大沢翔会ではなく、 桐生の地場センターの会議室で持参して戴いた作品を紹介してもらい、作品作りの姿勢、女性の仕事師としての哲学を語って戴いた。

■大沢晴美氏の講演概要
・山本寛斉のパリコレ「イコン」の制作で有名
・17才の頃は画家を志望していたが、絵では食べられない。刺繍と出会いこれだと思った。筆の代わりにミシンの針で絵の具の代わりに糸を使って絵を描く。(刺繍画) 刺繍を初めて40数年になるが一度も他のコトをやろうと思ったこともなく迷いもなかった。制作中は無心でありその為、どうやって刺繍したのかわからないこところもしばしばあるとか。
●女性の職業観・人生観
泣き言は止める・コピーはするな・主婦になるか、仕事に生きるかはハッキリすること。自分自身は仕事に生きてきた。主婦として子供を産み育てることは立派なこと、しかし仕事との両立は難しい。仕事に生きるのならば単なる受け手では行けない。寛斉さんの仕事を受けたのも刺繍屋としての下請的加工屋として受けたのではない。デザイナーの言う通りの事をするのではなく、刺繍家としてデザイナーは対等である。
自分の仕事に誇りだけは持つこと。そして自分がその仕事をやりたいと思っている限り120%のものを出す。そうすれば必ず理解され信頼される。
●全国を指導で回っていると、桐生の人には布地を扱っているという血が入っていると感じる。 桐生には布に対して一家言持っている人がたくさんいるので是非、そういう人と膝を突き合わせて話し合ってもらいたい。これからのデザイナーは形や色だけでは出来ない。テクニックは練習すれば修得できるが、感性が大切だという。
現在は作品作りに専念するためアパレル関係の仕事は引退している。
作品は自分の子供のようなものであり、だんだん売りたくなくなってきている。


■設備:

  ●ヨコ振りの刺繍ミシン-通常、手振りの刺繍ミシン、振り巾=1.2B最大    1.8B
  ●刺繍糸はパールヨット
  ●刺繍メーカーは桐生に100軒ぐらいあるが、これは全国で70%を占めてい   るとのこと

■主な商材:商材という表現はふさわしくなく、作られたものは芸術作品である
      特に動物の作品が多く、その動物 特有の毛並みや毛の生え方などを
      忠実に再現することによりリアルさを表現している。
      「ライオn」の作品にみるように、家族の絆をテーマにしたものが
      多い。
■特徴:

   ●誰でもできるコンピューターの刺繍ではなく、手振りは個性的でバラ付    きができる。
   ●氏の制作姿勢は下図は描かない。ミシンが筆で色糸が絵の具、油絵をキ    ャンバスにいきなり描くような手法。キャンバスは全体が見られるが、    刺繍の場合は30Bのワッパの中で部分々を作っていくので、全体を見る    ことが出来ない。その為修正することが難しく、途中で気に入らないと    ころが出てくると破って捨ててしまうという。とても厳しい姿勢で制作    している。

今回の産地見学会への参加者の多くが女性であったので、作品の紹介の他に"女性としての仕事に対する気構え"について氏の体験を交えた「仕事に生きるか・母親として生きるか」という話は参加者達に強い刺激を与えた。

今回の産地見学会の中で多くの最新機械や設備・商材を見ましたが、この大沢氏の仕事と生き方に対するお話が学生達にはもっとも心に残ったのではないでしょうか。

 

                           レポート 杉山哲三

 

自分としての代表作「幽玄」